Column.04
「蔵元に聞く!ひやおろしの魅力」
ひやおろしとは、春先に桶に貯蔵した酒をひと夏越してから火入れせず“ひや”のまま出荷するもののこと。秋の足音が聞こえてくるのに合わせて味わえる、今こそ旬のお酒です。愛知は実は地酒の宝庫。県内には40を超す日本酒の蔵元があります。愛知県産のひやおろしで、味覚の秋をいっそう豊かに楽しんでみませんか。
●長珍酒造 代表 桑山雅行さん
「熟してうまみが乗り、秋の食材とよく合います」
津島市の長珍酒造は、生産量200石余りの小さな蔵元。5代目の桑山雅行さんが自ら杜氏を務めます。酸味が強く、複雑で奥行きのある味わいはインパクト抜群で、愛知の地酒の中でも屈指の個性派として近年じわじわと存在感を増しています。
「ひやおろしは、火入れをせずにタンクから一本一本直接瓶に生詰めする原酒です。数は一升瓶で700本余り。瓶詰めしてから2週間ほど寝かせて味を落ち着かせてから出荷するので、皆さんに味わっていただけるのは9月下旬からになります。
当蔵のひやおろしは、渋みと酸味がやや残っていて、尻味・・・これは口の中で味が消えていく寸前の味わいを示す私の造語ですが・・・がバランス良くまとまる。しっかり熟してうちらしい味わいを出せていると思います。熟してうまみが乗ってきて、実り豊かな秋の食材と非常によく合う。こんなに季節感を楽しめる酒はありません。食べ物のおいしさを引き立てる日本酒の一番の持ち味が表現された酒でもある。是非いろんな料理と合わせて楽しんでいただきたいですね」
『純米吟醸 ひやおろし 原酒』
【長珍酒造/津島市】 販売時期:9月下旬~
しっかりと熟されて、こってりとしたうまみが乗った長珍らしい魅力が詰まった一本
●神の井酒造 代表 久野正彦さん
「ひやおろしには蔵の“らしさ”が現れます」
名古屋市郊外、緑区大高で150余年の歴史を持つ神の井酒造。柔らかな口当たりと軽やかな後味を重視した酒造りに取り組んでいます。新酒の季節に行う酒蔵開放は多くの左党を集め、親しみやすい味づくりにふさわしく、飲む人の絆を築いている蔵元です。
「当蔵のひやおろしは、タンクでほどよく熟成した辛口の純米酒と吟醸酒を生詰めしています。最初からひやおろしのために仕込むのではなく、何種類もの酒を仕込むうち、蔵の中での育ち具合を見てひやおろしとして出すものを選んでいます。よい熟し方をしていることが選ぶ際のポイントです。加水も加熱もしないものですから、ごまかしがきかず、扱いが難しい酒でもある。作りがしっかりした素性のよい酒しか出せません。
生酒ですからご購入いただいた後はお早めに飲んでいただくのが基本ですが、あえてしばらく寝かせて熟成を進めてから飲む楽しみもある。その場合も仕込みがよくないと味が損なわれてしまいます。蔵の考え方、酒造りの取り組み方が現れるという点でも、ひやおろしは蔵にとっては責任重大な、飲む方にとっては蔵の特色をつかむにも格好の一本です」
『神の井 純米 ひやおろし』
【神の井酒造/名古屋市】 販売開始時期:9月初旬~
やさしい辛口が基調で、滑らかな口当たりとしっかりした飲みごたえを両立。
よく冷やして飲むのがお薦め。
【まだまだあります!主な愛知県の蔵元のひやおろし】
『木曽三川 ひやおろし純米原酒』
【内藤醸造/稲沢市】 販売開始時期:9月上旬~
酸味と甘さのバランスが取れたまろやかでしっとりした味わい。
キリッと冷やして食中酒に。
『純米吟醸ほしいずみ 冷やおろし』
【丸一酒造/阿久比市】 販売開始時期:9月1日~
華やかな吟醸香となめらかな口あたりから、濃厚な米のうまみが広がる。
冷やでも常温でもおいしい。
○『特選國盛 彩華 大吟醸ひやおろし』
【中埜酒造/半田市】 販売開始時期:9月初旬~
まろやかな味わいと大吟醸ならではの爽やかさ薫るフルーティーな吟醸香が特徴。
冷酒またはオンザロックで。
○『白老 若水純米 冷やおろし』
【澤田酒造/常滑市】 販売開始時期:9月1日~
味はやや辛口。愛知の酒米・若水の特徴を活かし米のうまみがほどよく乗ってコクがある。
○『清酒菊石純米原酒 菊花の宴』
【浦野合資会社/豊田市】
純米酒本来の深い味わいとキレのよさが特徴的。
○『ひやおろし 山廃純米 人生劇場』
【神杉酒造/安城市】 販売開始時期:9月上旬~
しっかりした味わいで、味噌串かつやどて煮など豆味噌系名古屋メシと合わせて飲むのに最適
○ 『蓬莱泉 特別純米ひやおろし 夢筺(ゆめこばこ)』
【関谷醸造/設楽町】9月中旬~
愛知を代表する銘柄、蓬莱泉のひやおろし。熟成された柔らかなうまみと後味の軽いすっきりした酒
コラムで綴るあいち「ひやおろし特集」Vol.2、3は
下記よりご覧ください
取材【ライター 大竹 敏之】
<プロフィール>
名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなどに名古屋情報を発信。著書は『名古屋の商店街』『名古屋めし』『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』など。コンクリート仏師、浅野祥雲の“日本唯一の研究家”として作品の修復活動にも取り組んでいる。