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名古屋城 本丸御殿【第二期「対面所」「下御膳所」公開】
“殿様のプライベートルーム”へようこそ
第一期「玄関」「表書院」がすでに公開されている本丸御殿。
本丸御殿は、当初、初代尾張藩主・徳川義直の住まい・政治の場として使われましたが、義直が住まいを二之丸御殿に移したため、寛永10年に上洛殿の増築工事を開始して以降、本丸御殿は将軍上洛の際の宿舎となりました。
第二期で公開されたのは「対面所・下御膳所(しもごぜんしょ)」です。
さて一体どんなお部屋になっているのか…いざ出陣!
ヒノキの香りでお出迎え♪
中之口部屋から靴を脱ぎ入っていくと、あら、人気ナビゲーターのクリス・グレンさんじゃないですか。新しいヒノキの香りに、クリスさんは「今だけの香り、いい香りだね」とニコッ。食い入るように写真を撮っている姿は、さすが歴史マニアです。「ああ、オタクでゴメンネ」あ、わかってましたか。
「山水花鳥図」に見惚れる
内覧会では、名古屋城総合事務所の学芸員の解説を聞きながら、各部屋を見学していきます。
まず覗いたのは、納戸。と、いっても今のように物置という意味ではありません。当時の納戸は「控室」のこと。尾張藩主が最後に身支度を整えられた部屋を「納戸一之間」といい、身内や親しい家臣が控える待合の部屋を「納戸二之間」といいます。
「藩主に会わせるのも、大変もったいぶっていたわけです。“こちらでしばし待たれよ”と控室に通されて。親戚筋の海津の高須藩も来ていたと思いますが、その方々もこちらで殿のおなりを今か今かと待っていたんだと思いますよ」
障壁画は「山水花鳥図」。桜や松、水鳥の遊ぶ風景、紅葉など、春から秋にかけての描写が見事です(なぜか冬はない)。こんな部屋に通されたら身に余る光栄で感涙しそうです。
学芸員さんの興奮が止まらない!
「上段之間北面のふすま(上段之間からいうと「帳台構」)は今では開かずの扉となっていますが、昔はここが開いたんじゃないかって思うんです。あくまで個人的な推測ですが。ここが開かないと殿さまはわざわざ外の廊下に出てから、登場することになるでしょう?」
ということで、我々は「納戸一段之間」からぐるりと回って廊下から「上段之間」へ。確かにこれは不自然ですね。「殿のおなーりー」でバーンと現れたほうがカッコいいし、何よりスムーズです。え?じゃあなぜ今開かずになっているかって?それは本丸御殿が作られた6年後に二之丸御殿が作られ、機能が移ってしまったので、(実測図のある)幕末までの間に閉じられたのではないか、とのこと。こういう想像が楽しいのは学芸員も同じ。お互いに、うんうんとうなずき合います。
The品格!書院造りの「上段之間」
殿が「苦しゅうない」と近しい人たちと対面する「上段之間」は、他の部屋に比べると格の違いが歴然。四方に描かれた障壁画も色彩が豊富に使われていて鮮やかです。
我々はさすがに「上段之間」には入ることができませんので、家臣らが入った「次之間」から「上段之間」を正座してほほぉ~と観るわけです。すると黒漆の塗られた「二重折上小組格天井(にじゅうおりあげこぐみごうてんじょう)」を見上げる恰好に。うわーカッコいい~!先に公開されている「表書院」は天井も白木造りなので、対する上段之間のモダンな感じがまたいかにも“殿のプライベートルーム!”的なニオイがしていいですね。
「御殿は天井で格が分かるものなんです。上段之間と次之間は同じ折上小組格天井ですが、上段之間はさらに“二重”。細工が細かくなっているんですよ」。
それにしてもどの部屋も調度品が見られませんが…。「本来であれば、ここには権力を示すような調度品や書物が置かれていたと思いますが、今回はこの建物の造りをしっかり見ていただきたいので、あえて置いていません」。ほうほう、確かに建物の細部までしっかり見学しちゃっています。調度品は自分で想像…っと。
春姫の心を癒す、故郷・和歌山の障壁画
上段之間は京都、次之間は和歌山の風俗・景趣が描かれています。それは、本丸御殿が完成した直後の1615年4月に尾張藩初代藩主の徳川義直と紀州・浅野家の春姫との婚儀が行われたからだそう。
和歌山の障壁画には、子どもが綱引きしていたり、曲芸をしていたりと正月を祝う様子が描かれたものも見られ、とても楽しさのある絵になっています。きっと嫁入りにきた春姫の心を癒す目的もあったのでしょうね。そういう意味でも、とてもプライベート色の強い部屋づくりで興味が湧きます。
料理の最終仕上げを行う「下御膳所」
そして最後は下御膳所へ。台所で調理された料理をここでお膳に並べて、お運びするところです。いろりがあるのは、温め直しのため。宴席の状況に合わせて、料理を温めて出すなど、とおもてなしの最終仕上げをするのです。
この入り口には、本丸御殿の復元を願いながら2015年に亡くなった造形作家の夢童由里子さんの手形プレートが置かれています。本丸御殿復元には決して忘れてならない人物…「完成おめでとうございます」と心の中で伝えました。
歴史に入り込める完全復元
名古屋城の本丸御殿の何がすごいかというと、いろいろあるものの「新しさ」もひとつなのではないでしょうか。「新しいと、いかにも今作った感じがして…」と言う人もいますが、いやいや、当時は新しいに決まってますからね。障壁画の色の鮮やかさやヒノキや畳の香り、当時と同じ感覚が味わえるのが、復元のよさでもあるでしょう。特に名古屋城は、こだわりにこだわった実測図と寸分違わぬ復元ですから、歴史を目の前にしているという興奮があります。しかも殿さまのプライベート空間に入ってるわけですから…わが身が姫でもなければ、とうていありえないことができているのです。
第三期の全体完成公開は平成30(2018)年。家光が上洛するときに増築された上洛殿が披露される予定です。第二期が公開されたばかりで気が早すぎますが、すべて揃った姿を早く見たいものです。
ココにも注目!
「玄関」「表書院」(第1期)と「対面所」(第2期)の違いを見てみよう
障壁画
本丸御殿に訪れた人がまず通され取りつぎを待つ部屋が「玄関」(別名:虎之間)。四方を囲むようにして勇猛な虎やヒョウが描かれています。「来訪者を威圧する」ためだとか。
表書院「三之間」は、来客の家臣が控えた場所です。初夏がテーマとなった障壁画で彩られています。外国に生息する「ジャコウネコ」が描かれているのは、知識の広さをアピールしているんですね。
ここは対面所のほう。同じ取りつぎを待つ部屋でも、「玄関」と違い、キンキラしていません。自然を描いた「山水花鳥図」は鮮やかながらもみずみずしい色合いで、落ち着きがありますね。いかにもプライベートな感じです。
上段之間
どちらも殿がおわします上段之間ですが、こちらは「表書院」のほう。ここまでキンキラしていると、殿さまの後光に見えてくるから不思議です。“冬でも枯れない”として縁起のよい松が床の中央に描かれていますね。
武家風書院造であり、天井が折上小組格天井であるのはどちらも同じ。しかしこちらの「対面所」は、天井が黒漆で塗られています。キンキラを背負った殿さまより、親しみのある殿さまの姿が見られそうですね。
クリス・グレンさんが「名古屋城の歩き方」をナビゲート
A Walk Around Nagoya’s Samurai Castle
There are many articles on the internet extolling the wonders of Nagoya Castle. Most will tell you the most obvious points and places to look for,..here are a few you might not have known about.
The first thing to notice when visiting Nagoya Castle are the three sets of moats, and all stone work surrounding the castle. This was all completed in six months. I kid you not! It was still the Sengoku period, a time of civil war, and so they didn’t have the luxury of taking their time putting up castles. It had to be done like,..yesterday! Six months! Can you imagine how many workers there must have been to get this done by hand 400 years ago?...
下記リンクよりクリス・グレンさんの名古屋城特集をご覧いただけます。(English)