Column.70
伊東合資、銘酒「敷嶋」ブランドが復活！
半田市亀崎の酒蔵が地域のランドマークを目指す。
半田市亀崎の地で醸され、かつて中部地区最大規模の日本酒生産量を誇った銘酒「敷嶋」。敷嶋を手がける伊東合資会社は、一度はその歴史に幕を閉じたものの、９代目の伊東優（まさる）さんが敷嶋ブランドを復活！ 2024年には、酒蔵を中心とした複合施設「伊東合資」をオープンさせました。復活プロジェクトに込められた想いとともに、施設の見どころや楽しみ方をご紹介します。
200余年の時を経て、酒蔵復活のプロジェクトストーリー
消えてしまった酒蔵を復活させる。それは、決して簡単なことではありません。代表の伊東優さんに、プロジェクトの原点となった酒蔵や地域への思い、再スタートまでの道のりを振り返ってもらいました。
「前身となる伊東合資会社は、天明８年（1788年）に半田市亀崎町で創業しました。海に面した場所にあり、かつては千石船でたくさんの酒を江戸へ供給していたといいます。2000年に一度廃業しましたが、祖父の死をきっかけに“この建物を残したい、そのためには活用していかなければ”という思いが高まって。異業種から酒造りの道に飛び込みました」
自身のルーツともいえるこの場所を、地域の拠点として再生すべく動き出した優さん。酒造りの勉強、酒造免許の再取得、資金調達のためのクラウドファンディングなど、やるべきことは山積みでした。
「勉強のために三重県名張市の酒造場で働き、タンク１本分の酒を自分で仕込ませてもらったんです。そこでできた酒を『敷嶋０歩目』とし、21年ぶりに敷嶋ブランドを復活させました。また、復活までの道のりで、一番気を揉んだのが酒造免許。清酒造りには免許が必要なのですが、現在、新規発行はされていません。ただ、色んなご縁に恵まれ、無事に再取得することができました」
2021年1月には、一度は売り払われた建物を買い戻し、同年12月からは念願だったここ亀崎での製造をスタートしました。
ショップ、カフェ、レストラン。亀崎を人の集まる「面白い」場所に
半田市亀崎町のある知多半島は、古くから醸造が盛んな地域。伊東合資会社も、亀崎のまちとともに発展してきました。そのため、地域に開かれた場所にしたいと考えるのは、ごく自然な流れだったそう。
「知多半島って醸造はもちろんのこと、食がすごく豊かなのです。畜産も漁業も、野菜もお米も、すごくいいものがある。でも、残念なことにあまり知られていない。だから、他の地域から、食をめがけて亀崎を訪れてくれる人を増やそうと考えました」
こうして2024年1月に完成したのが、酒蔵を中心とした複合施設『伊東合資』です。
登録有形文化財を含む歴史的な建物群に、日本酒と食のペアリングが体験できるカフェ、日本酒 敷嶋や地域の銘品が手に入る直販店、知多半島の食材と食文化を楽しむ完全予約制レストランがあります。
「見て、感じて、味わって、体験してもらえる場。毎年春にはお酒の祭典『亀崎酒蔵祭』、夏と冬には、約60の出店者が集まる『蔵シカルmarche』、また、不定期で見学ツアーも開催しています。将来的には民泊や酒造りのワークショップも計画中です」
めざすはおいしい食中酒。Sake Cafe「にじみ」でペアリング体験
「伊東合資」がめざす酒造りは、食事を豊かにする食中酒。Sake Cafe「にじみ」では、その魅力をたっぷりと体感することができます。
「カフェでは、旬の料理と、それに合うお酒をお楽しみいただけます。たとえば、和牛ソースの和牛ハンバーグには、純粋な旨みと酸を感じられる『純米大吟醸 無濾過生原酒』を。この地域の味噌やたまりしょうゆを使った料理には、うまみがしっかりとして、とろみのある『特別純米 無濾過生原酒』を。お酒自体もそれぞれ個性があっておいしいのですが、食と合わせることで味わいや香り、楽しみ方が何倍にも広がります」
カフェで提供される水は、ミネラル豊富な酒造りの仕込み水。創業当時より、敷地内の井戸から汲み上げています。日本酒の合間に、口の中をリフレッシュする和らぎ水として飲むことで、銘柄ごとの味わいをより繊細に感じ取ることができます。
ドリンクは日本酒カクテルのほか、地元の銘茶、ノンアルコールのモクテル等も用意されていますので、お酒が苦手な人や、車を運転する人も楽しめますよ。
カフェの床を彩るレトロなタイルは、酒蔵として使われていた当時の名残。かつては酒を搾る「槽場（ふなば）」と呼ばれる場所で、衛生的に保つため、床にタイルが使われていたそうです。
また、敷地内にある完全予約制のレストラン「gnaw（ノー）」では、食材はもちろん、炭や薪といった熱源も知多半島産！ 作り手のストーリーと、知多の旬が詰まった料理の数々を、五感で味わうことができます。
蔵の店「かめくち」で、買い物に角打ち体験も
買い物を楽しむなら、蔵の店「かめくち」へ。日本酒 敷嶋をはじめ、地域の醸造調味料、酒器、酒米を使ったオリジナルアクセサリーなど、魅力的な商品が並びます。
写真左から、愛知の酒米を使い、ワインのようにフルーティな香りときれいなうまみが続く「純米吟醸 夢山水」720ml 2,310円。広がりのあるうまみと、とろりとした飲み口の「特別純米 無濾過生原酒」720ml 1,870円。雑味のないうまみと酸に加え、寝かせることで妖艶さが際立つ「純米大吟醸 無濾過生原酒」720ml 3,300円。知多の米農家・NAO RICEさんの夢吟香を使った、柔らかな飲み口の「鳳凰敷嶋」720ml 1,650円。レトロなデザインの「鳳凰敷嶋」は明治時代の復刻ラベル。
琥珀色をしたこちらのお酒は、敷嶋の秘蔵古酒。2000年、酒蔵を畳む際に売却したお酒が長野県の酒蔵に残されており、復活にあたって買い戻した。敷嶋 古酒（桐箱入り）7,000円 ※かめくち限定品、なくなり次第終了
日本酒をより味わい深くしてくれる、美しい酒器も購入することができます。ちなみに、酒器をディスプレイする重厚な棚は、その昔、この場所が銀行だった時の金庫を利用したもの。
ピアス、ネックレス、リングなど、かわいらしいアクセサリーに使われているのは、なんと酒米！ ハンドメイドで一点一点、丁寧に制作されています。
日本酒バーとして角打ち営業も行っており、有料の試飲メニューが用意されています。３種類の銘柄を少しずつ味わえる飲み比べセットは、「いろいろ試したい」「お土産選びの参考にしたい」という人にはうれしいメニュー！
なお、店名の「かめくち」（亀口）は酒造用語で、醪（もろみ）を搾り、流れ出た原酒を受ける最初の容器のこと。亀崎の入り口となり、さまざまなモノや人が集う受け皿になれるように、との願いが込められています。
時は江戸から令和へと移り、再び歴史を刻み始めた「伊東合資」。半田市亀崎の地で醸される、新たな酒蔵文化を感じてみてください。
伊東合資 基本情報
住所：〒475-0023 愛知県半田市亀崎町9-111
電話番号：0569-29-1126
■Sake Cafe にじみ
営業時間：11:00～17:00、ディナー営業(完全予約制)～21:00 ※ディナーは10名様以上
定休日：月曜日
■蔵の店 かめくち
営業時間：火～土曜日 10:00～19:00、日曜日 10:00～17:00
定休日：月曜日
■Restaurant gnaw※ 完全予約制
営業時間：18:15開場 18:30スタート(約3時間～3時間半を目安とする)
定休日：日曜日・月曜日
愛知の発酵食ポータルサイトはこちら
＞＞【公式】愛知の発酵食ポータルサイト「あいち発酵食めぐり」
味噌、しょうゆ、みりん、酢、日本酒、漬物など、あいちの食文化を支えるさまざまな発酵食をご紹介いたします。
伊東合資周辺の観光スポット
Spot Overview
亀崎駅半田市
国内最古の現役駅舎とされるJR武豊線の駅「亀崎駅」。
東海道線の建設物資を運ぶため、明治19年に開通。今も「現役」の駅としてその役割を果たしています。
亀崎地区は明治初期ごろまでは海運業や醸造などで栄え、潮干の浜での山車の引き廻しで有名な国指定重要無形民俗文化財「亀崎潮干祭」で知られています。なお、「亀崎潮干祭」は、2016年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。
Event Overview
亀崎潮干祭半田市
愛知県知多半島の北東部、衣浦港に面した半田市亀崎地区で、毎年5月3日、4日に行われるお祭りです。300年以上も続くといわれる神前神社の祭礼で、祭神である神武天皇が海よりこの地に上陸したという伝説にちなみ、5輌の山車を潮干の浜へ曳き下ろしたことから、この名がついたといわれています。豪華な刺繍幕や精緻な彫刻で装飾された見事な山車とその山車を豪快に曳き廻す男衆の熱気と興奮、鳴り響くお囃子の調べと威勢のよい掛け声など、心が躍る祭りの世界観をぜひ体感してください。
