Column.11
ようこそ、不思議ワールドへ 愛知の秘境・とみやまトリップ
1枚の地図から始まった、とみやま探訪…
ミッションは「この地図を持って富山地区の魅力を探す」こと。
静岡県と長野県に接する愛知県の最果ての地、とみやま。現在は、豊根村と合併してしまいましたが、富山村であった時代は「日本一小さな村」だったところです。なんでもここは、室町時代に源氏の落ち武者が開いた隠れ里だったとか。「隠れ里」の響き、ワクワクするわぁ。
大嵐駅からすでにミステリーがはじまっていました
出発点はJR飯田線「大嵐(おおぞれ)」駅。この駅は、静岡県浜松市にありますが、ほぼ愛知県の富山地区の玄関口として利用されています。郵便は静岡県の天竜郵便局の局員さんがリュックを背負って電車とバイクで配達するんだとか。新聞もいったん大嵐駅まで電車で届けられるため、夕刊は翌日の朝に届けられることになります。便利すぎるこの時代に、こんな場所があるなんて、ちょっと感動!
大嵐駅の駅舎は、なんと東京駅をモデルに作られたのだそう。駅から村の中心部までの約3kmほどの距離は、村営バス(平日のみ)を利用します。鷹巣橋を渡るとそこは、富山地区。目の前に広がるのは、エメラルドグリーンをしたダム湖(佐久間湖)。おだやかな湖面を見ているだけで、ゆったりとした気持ちになります。
鹿の解体を学ぶ小学生!?
富山駐在所から細い路地に入り、猟師さんの集会所(囲炉裏のある民家)に到着(※1)。「家の前に公道」、と地図にはありますが、当然舗装はされていません。民家の中には子どもの字で書かれた手作りの感謝状が飾られていました。「鹿の解体を手伝ってくれてありがとう」といった内容が書かれてあって驚愕。し、鹿の解体…(;^ω^)。ここで育った子どもたちは、きっとたくましい大人になることでしょうね。
セレブ!自家用モノレールを所有する家!
「ナカミチ」と呼ばれる信州街道まで出ました。「家に向かってモノレール」と地図に書かれてあります。家?と思いながらキョロキョロと辺りを見渡すと、道路よりずっと上の方、茶畑(やぶ北茶)の上に、大きくて古い民家が。確かにそこに向かってモノレールがありました。不便な場所もこうやって少しでも快適にしてきた村民の生きた足跡がまたいいですね。ここには、変わらない人々の暮らしがあるということを実感しました。
伝統の熱き灯を舞にこめて
南北朝時代に建てられた熊野神社に到着。暑い日でしたが、境内を吹き渡る風は清く冷たく、特別な空間であることを肌で感じました。ここは御神楽祭り(※2)が行われる場所で、舞を行う舞台が中央にあります。祭り前には注連縄を作り、それが毎年締めかえられ、古来の風習が今なお受け継がれているそうです。「舞は親から子へ受け継がれるものでしたが、今はみんなで練習して、伝統を絶やさないようにしています」とガイドさん。なにしろ人口は89名。祭りひとつ継続するのも並大抵のことではありません。まさに奇跡の祭りなのです。
村民に出会う前にロバに遭遇
平地というものが存在しない富山には、傾斜地に石垣を組むなりして家が建っています。どこからでも見えるほど高い場所にある富山小中学校は昭和33年に村民がお金を出し合い、石垣を積んで建てたもの。人口減少が激しくなってからは山村留学も実施、清山荘が宿泊所となって、食事・掃除も当番制の共同生活を行っていたそう。隣にはロバのチョコとミルクのいるロバ小屋が。こんなに人懐っこいのは、子どもたちに可愛がられてきたからでしょうね。2015年の廃校によって、山村留学は行われなくなりましたが、清山荘はイベントで利用されているそうです。
地図には「黒川紀章が設計した建物が見られる」とあったので探してみると…ありました!“小中学校”です!なるほど、確かにちょっと変わった建物…。
「とみやま来富館」を拠点に
山村体験宿泊施設「とみやま来富館」の上からダム湖を見下ろすとそこには絶景が!それにしても、村の人は一体どこに…かれこれ2時間はここにいますが、ガイドさん以外の村民にはいっこうに出くわさないのです。
「とみやま来富館」の内部は驚くほどキレイな施設で、いろいろなイベントを行っています。とみやまに興味があるけど、どう過ごしたらいいのかな、という人には、食事もできて温泉もあるココを拠点にするのがオススメ!
鳥居代わり!?カミノキの通せんぼ
清水が脇を流れる山道に入るとそこはシダ植物の群生地。コケ鑑賞を楽しむ女子が増えて「コケガール」という言葉も生まれているようですが、いろいろな種類が群生しているから結構楽しめるはず。
そして突然、大きな木が“通せんぼ”。地図を見ると「行政の怠慢じゃないよ!」と書かれてあります(;^ω^)。山の神と呼ばれる祠にほど近い、カミノキと呼ばれているこの木をくぐると、何やら御利益がある気がして、お願い事をしながら通りました。さてさて御利益のほどはいかに…!
空っぽになりにいらっしゃい
元日本一小さな村、とみやま。すべてが不便なはずなのに、ぶらっと村巡りも楽しく、釣り、川遊び、トレッキングにカヤッキング、なんでもできちゃう村なのです。歩けば歩くほど、何もない暮らしの贅沢さに気付かされます。今やスマホなしの生活は考えられないけれど、ここならすべてを脱ぎ捨ててリセットできます。休日ぐらい、頭の中を空っぽにしにいらっしゃい。心の特効薬、じわじわ効いてきますよ。
※1…いろりとかまどの古民家でスローライフ体験ができます(貸切予約受付中)。
※2…御神楽祭り(みかぐらまつり)は、毎年1月3・4日に、熊野神社で行われる祭り。今でも女人禁制で、男性だけで行われます。氏子連は、舞の練習が始まると、四つ足の肉を摂取せず、心身を清めて当日を迎えます。祭りは、神迎え・神遊び・神返しの3部構成。「権現様の鼻むしれっ~」と鼻をつまむ「はなうり」や、ボロ衣をまとってシラミをとる真似をする「しらみふくい」など、面をかぶって演じるユーモラスな舞が見ものです。