Column.61
歴史を動かす大事業!修復された源氏物語絵巻の見どころを紹介
徳川美術館「修復完了記念 館蔵全巻特別公開 国宝 源氏物語絵巻」
11/13(土)~12/12(日)※前期11/13~11/30 後期12/1~12/12
徳川美術館は、御三家筆頭の尾張徳川家に受け継がれてきた名品の数々を公開する美術館です。こちらに所蔵されている1万件あまりの宝物の中でも、ひときわ重要な作品として知られるのが、源氏物語を絵画化した現存最古の絵巻である国宝「源氏物語絵巻」ではないでしょうか。
紫式部が「源氏物語」を発表してから約1世紀後、今からおよそ900年前に製作されたといわれ、現在は徳川美術館に3巻と五島美術館に1巻を所蔵するのみ。貴重な文化財のため常設展示はせず、毎年11月~12月頃、所蔵作品の中で2場面のみ期間限定で公開しています。
2021年11/13(土)~12/12(日)まで開催される「館蔵全巻特別公開 国宝 源氏物語絵巻」は、2016年から5年にわたる修復作業の完成を祝して行われる展覧会です。今年はなんと、徳川美術館が所蔵している全巻を公開!一度に多くの国宝絵巻を目の前で鑑賞できるチャンスです。(前期・後期で展示替えあり)
以前の展示を見たことのある方ならおわかりになると思いますが、これまでの「源氏物語絵巻」は額の中に入れられて展示されていました。これは、美術館の創設者である19代徳川義親さんが、絵巻の開閉のたびに損傷してしまうことを心配し、昭和初期のプロジェクトで、巻物の絵と詞書の部分を切り離し、額に入れ、折り曲げないよう平面で保存していたからです。
ところが、当時としては最善とされたその手法も、その時本格的な修復が施されなかったことや、桐の額の収縮がもとで、しわや縦折れ、亀裂、絵具の剥離など様々な劣化が見られるようになってしまいました。そこで再び修復を施し、本来の巻物(巻子装)の形に戻すことにしたのです。
そんな経過を踏まえての、今回の源氏物語絵巻の特別展示。
ひと足お先に鑑賞してきましたので、展示の見どころを紹介しましょう。
絵巻の本来の楽しみ方である「物語の連続性」を感じることができる!
絵巻物になったことで、絵と詞の織りなす、優美で流れるような世界を、当時の人々と同じように感じられるようになりました。
ぜひ、絵巻の世界を楽しむように、ゆっくりと動きながらご覧ください。
徳川美術館の「保存と公開」への強い想いと、後世に繋ぐプロの現場に心を揺さぶられる!
900年という歴史を、昭和、平成、令和と多くのプロフェッショナルの手を繋いで後世へ送り出していることがわかる展示です。入口に静かに置かれた巻物と収納箱から、徳川義親さんが模写と保存に取り組んだ昭和、科学分析で当時の色彩が解明された平成、そして最先端の保存技術を施した令和へと歴史が進んでいき、その奥にいる人々の、源氏物語絵巻にかける真摯な想いを感じることができます。神谷浩副館長が「修復は数百年単位で行う事業」と語っていらっしゃいましたが、まさにそれを感じる展示となっています。
新調された部分にも現代の名工による最高級のしつらえが!
今回の「額面装から巻子装への改装」は、当時と全く同じ姿に戻すのではなく、現時点で最善と思われる方法(太い巻き芯に巻き付ける)で、慎重に行われました。また、軸首の螺鈿は人間国宝の手で作製されるなど、昭和・平成からの修復のバトンリレーを受け継ぐにふさわしい最高級のしつらえが施されています。
有名な「柏木」の場面をじっくりと楽しめる!
前期(11/13~11/30)では、女三宮が出産し衰弱していることを聞き、父・朱雀院が見舞いに訪れる場面「柏木一」、複雑な面持ちの光源氏がわが子ならぬ子(薫)を抱く様子が描かれた「柏木三」を公開。後期(12/1~12/12)は、死を前にした柏木が、見舞いにきた親友の夕霧(源氏と葵上の子)に、自身の不義の告白をする「柏木二」が公開されます。そのほかにも「竹河」「宿木」「東屋」など、所蔵15巻を新たな姿で見ることができます。
~ もちろん、源氏物語絵巻展以外のお楽しみもいっぱい! ~
日本の美意識の根っこを感じる「企画展 唐絵―尾張徳川家の中国絵画」もすごい!
源氏物語絵巻に代表される「やまと絵」に対し、日本に渡ってきた中国絵画は「唐絵」といいます。この唐絵には、ランク別に分けられた目録(リスト)が室町時代に作られ、どのように飾ったら良いかなどのマニュアルもあったそうです。江戸時代の尾張家はじめ大名家はこのリストを重んじていました。当時の美意識の有り様がそのまま残され、見ることができるのは徳川美術館ならではの魅力です。併せてご覧ください。
物語の世界観を表現するオリジナルスイーツに癒される!
今回の特別展示を楽しんだら、喫茶室で限定ケーキはいかが。こちらの「紫苑」(単品600円・セット850円~)は、ラズベリーやアーモンド、紫芋のクリームなど9種類を重ね合わせ、十二単のような艶やかなルックス&甘酸っぱい恋の味が口いっぱいに広がり、しばし余韻にひたれそう。
他にも平安時代に食べていたとされる「亥の子餅」や、「椿餅」などの和スイーツもありますよ。どちらも源氏物語に出てくるお菓子なので、この機会にぜひ味わってみてくださいね。
美しい日本庭園の紅葉も堪能できる!
モミジやニシキギなど約300本の木々が色づく徳川園では、11/20~12/5まで「錦を纏う 徳川園 紅葉祭」が行われています。夜間開園ライトアップもお楽しみください。
雅な秋の風情に包まれた特別公開、ぜひお越しください!
【YouTube】特別公開「国宝 源氏物語絵巻」展覧会見どころ紹介
Spot Overview
徳川美術館名古屋市
開館は昭和10年(1935)。徳川家康の遺品を中心として、九男で尾張徳川家初代藩主の義直から代々伝わる遺愛品、家族が使用していたものなどさまざまな大名道具を見ることができます。収蔵数はなんと1万件以上にのぼるのだとか。
また、世界的にも貴重な国宝「源氏物語絵巻」を筆頭に、徳川美術館でしか見ることのできない貴重な品が保存状態も良く残されています。きっと、歴史を肌で感じることができるでしょう。